「ひきこもり支援と農業」※掲載内容とは一部異なります。
育てること、生きること
私にとってひきこもり支援と農業のつながりは10年ほど前に遡ります。
私は群馬県内の酪農牧場で働いていたのですが、当時、近しい関係にあった人がいわゆるひきこもりの状態にあり、その支援に動いたことがきっかけでした。
週2回3時間程度、家畜舎の清掃の手伝いとして一緒に作業をしました。初めは久々に体を動かす仕事でくたくたになっていたり、大きな牛が近づいてきたりするのに戸惑ったりと、大変そうにしていましたが、作業を重ねるごとに心地よい汗を感じながら、牛のゆったりとした動きにも慣れ、作業の達成感を得ているように見られました。
そしてその影響は普段の生活にも表れ、会話や外出も増えるなどポジティブな変化がみられてきていました。
しかし、8か月ほど続けていた頃、牧場の都合により継続が難しくなったため、自らが事業を起こし、支援を継続させることになりました。支援と農業がつながることの手ごたえを感じたことから、支援の中に農作業体験や牧場体験などを取り入れました。
その後、支援事業を続けながら、障害者福祉から就労支援について学ぶため、障害者就労移行支援事業所で働き始めました。その時に県西部で進められた農福連携事業に福祉事業所の支援員として関わることになり、富岡市内で自然農法、有機栽培を行っているこんにゃく農家さんとの交流が始まりました。
私は利用者の方たちとこんにゃくの掘り取り作業などを体験しました。最初はこんにゃく芋を見たこともない、屋外での仕事の経験も少ないという方も多く、それぞれ様々な障害があることから、不安な気持ちもありました。しかし…
妙義山を一望できる広大な畑の中、さわやかな秋風を感じながら、それぞれが地べたに腰を下ろし、目の前の泥まみれの芋に集中する。
農家の方にやり方を教わりながら、皆で協力して一生懸命作業を進め、気が付いたらあんなに広かった畑の掘り取り作業が終わっている。
達成感と適度な疲労感に満ちた中、最後にお茶をごちそうになりながら皆で談笑をしている…
そんな光景を見ながらそのような気持ちはなくなっていました。
利用者の方たちは農業志望ばかりではなかったですが、多くの方にとって、これから社会に出ていくという段階で、社会に対する良いイメージを感じることができたことは、皆にとって好影響だったと思います。
引きこもり支援と農業をつなぐ活動をしてきて感じたのは、これらは違うことのようで根底では同じだということです。人も作物も動物も、各々を理解し、配慮し、お互いが健やかに育つ(生きる)ことが大切です。
しかし社会の中ではそれらが見失いがちになり、どうしても個々の利益、効率など優先される結果、不健全な生きにくい社会になってしまうと思うのです。
そうならないためにも、健全な社会が醸成されることを願いながら、私は今できることをこれからも続けていきたいと思っています。