ひきこもり問題の世代間による違い

引きこもり問題の世代間による違い①「40代以上の世代」

引きこもり問題の世代間による違い

 

 私は「引きこもりの問題」の解決に長年関わってきて、同じ「引きこもり状態」の人でも、世代によって、また取り巻く社会環境によりその要因は大きく異なっていることを感じます。

 したがって、「引きこもり問題」を語るうえで、大きく、40代以上(氷河期世代)、30代、20代以下と3つに分けていきたいと思います。

ただこの区切りについては明確なものはなく、また、大きな流れとして説明するものであり、それにそぐわない方も多くいることも付け加えておきます。この問題を考えるうえで参考にしていただけたら幸いです。

 

①40代以上(いわゆる氷河期世代)の世代

 

 いままで、「引きこもり問題」として多く語られてきたのがこの世代です。その数も多く、長年減らずにその問題が解決されずにいます。世代別でいえばこの世代が一番多いのですが、当方に相談に訪れるような方はこの世代が一番少ないのが実情です。

 この世代の引きこもりの主な原因は、バブル崩壊後の経済縮小による犠牲です。それは雇用の減少のみならず、ブラック企業や非正規雇用での労働力搾取、パワハラなどの被害などによりこの世代の多くが心身ともに傷ついてきたという現実があります。引きこもりだった40代男性が「僕らは報われない世代だ」と言っていましたが、その通りです。そしてその状況は今も続いています。

 そしてもう一つ、大きな要因があります。それは、当事者や家族が、バブル崩壊以前の価値観を持ってしまっているということです。引きこもりのきっかけとしては前述した社会による要因が大きいですが、長期化している要因はこれが一番大きいです。

 バブル崩壊以前は「働くことは当たり前で、それができなければ恥」という価値観が多くを占めており、実際に大半は実現が可能なことでしたから大きな問題ではなかった(ただその時代でもできない人には息苦しい思いはしたと推測されます)ですが、バブル崩壊後はそれが多くの人にとって実現困難なものになりました。前述した価値観が強い当事者、家族ほど、現状を「恥」とみなし、それを隠そうとするため、表に出てこないのです。

 また、彼らの世代の引きこもりが問題となった当時から20年近くは社会全体も前述の価値観や自己責任、怠けだという認識が多くあったため、彼らが社会に出る障壁になっていたことも事実で、近年引きこもりに対する認識が改まってきたことに対しても、「何を今さら」と、諦めに近い思いでいるのかもしれません。

 しかし8050問題でいわれるように、家族が隠し切れない状況になった時、問題が顕在化してくるでしょう。それはそう遠くない先のことです。

 この世代の方々がまず行うことは、「人に頼る」ことです。
以前人に頼ろうとしたけどうまくいかなかった、という人もいると思います。しかし以前よりも支援体制は整ってきており、今からでも問題解決に向け進めていくことは可能です。
 もし「誰を頼ればいいかわからない」のであれば、まずは当方へご相談ください。ご本人にとっての「幸せ」となる答えに向かい、一歩を進めていきましょう。

引きこもり問題の世代間による違い②「30代を中心とした世代」

引きこもり問題の世代間による違い②「30代を中心とした世代」

 2013年に発達障害の新しい診断基準が公表され、自閉症スペクトラム症とADHDの両方の診断が年齢問わずにつきやすくなったことにより、より多くの方が発達障害と診断されるようになりました。
 幼少期にそのような診断を受ける機会がなかった、主に30代以上の世代で発達障害にあたる方々は、自覚がないまま就学、就労期のいずれかの時点で、コミュニケーションや活動時に「うまくいかない」と感じて日常を続けることが難しくなり、場合によっては精神疾患を抱え、引きこもり状態になってしまう、30代を中心とした世代にはこのケースが多いように感じます。
 しかし、2013年に障害者総合支援法が施行され、発達障害を含めた多くの障害を持った方々に対する医療、福祉、公共サービスによる支援の受け皿が広がったため、そのようなケースの方々も、適切な診断、適切な支援を受けられれば、問題解決へ進めることができるように改善されています。

 ここで一つ疑問が浮かぶのが、「発達障害のある人がなぜ増えたように感じるのか」ということです。
 ここからは私の私見ですが、昔から発達障害にあたる人は一定数いたが、それでも問題なく就労できるような環境があったのではと考えられます。バブル崩壊前の右肩上がりの社会情勢の中、企業は仕事を覚えるのに時間がかかる人にも時間をかけることができ、複雑な仕事が難しい人には単純な作業を用意することができました。そして何より社会に様々な人材を受け入れられる余裕があったように感じます。
 しかし、バブル崩壊後の右肩下がりの社会情勢の中では、企業は生き残るために「生産性を向上させ、無駄を省く努力」をしてきました。新しい人材には即戦力を求め、作業の機械、IT化や、国外生産へ移行を進めることで単純作業を減少させ、無駄のないマニュアルを徹底し最小人員で業務を進めることを追求してきた結果、それに対応できない方たちが増加し、その中に実は発達障害に見られる特性を持った方も多かった、ということだと思います。
 障害とは本人の持っている特性だけでなく、本人のおかれる環境にも相関するものなので、ある意味、氷河期世代と同じようにバブル崩壊後の社会情勢による犠牲という見方もできるのかもしれません。
 
 多くみられる事例として発達障害を取り上げましたが、特性のない方々にも上記のような「余裕のないストレスフルな職場環境」に対応できなかった方々、周囲との関係に悩み、精神的な疾患を抱え引きこもり状態になってしまったという方も多いと思います。

 ただ、前述したように、それら障害を持った方々に対するセーフティネットは拡充されており、適切な対応、支援により問題改善に進む方法は必ず用意されております。
「まずはどうすれば?」という話だけでもできますので、ぜひ当方へご連絡いただけたら幸いです。

引きこもり問題の世代間による違い③「20代以下の世代」

引きこもり問題の世代による違い③「20代以下の世代」

 20代以下の世代について、私なりに一言で表すと、それは「多様化された世代」です。今までの世代を表す言葉として、団塊の世代、氷河期世代、ゆとり世代など、その世代を大きく象徴するような〇〇世代という言葉で表されてきました。

 しかしここ10年ほどの社会、とりわけ若い人たちを中心とした社会の中では、メディア媒体がテレビからインターネット、SNSの普及により情報、交流が画一的なものからより多面的なもの、グローバル化、急激な時代の流れ、というように変化し、人々の価値観や生き方、将来のビジョンなどもより多様性を持つようになったと感じます。

 ただ、その世代の中でも、共通してあるのもが、「将来への閉塞感」です。氷河期世代や30代は子供のころバブル期を経験したり、親がバブル期の中心にいたりと、まだその余韻の中にいました。
 しかし、20代以下の世代にとってはバブル期はすでに終わった昔のことで、彼らは超高齢化社会で経済が右肩下がりの中、さらに数々の震災やコロナ禍などを経て、「将来への閉塞感」を物心つく頃から抱いています。
 
 そのような影響下、以前の世代に多くあった価値観にも、変化が起きていると感じます。例えば、競争社会から共生社会、所有する価値からシェアする(分け合う)価値、地位や仕事よりもコミュニティの維持、チャレンジよりも安定、現実社会よりも仮想社会というように。
 
 ただこれらの傾向も一概に言えない、つかみどころのない、判断の難しいところが、「多様化された世代」の特徴なのかもしれません。

 しかし、このような若者たちの価値観の変化は、「社会での自分の位置づけ」についてそれぞれに大きな課題を持ってしまうことにもなるかもしれません。多様化された価値観から、多様化された生き方を模索しなくてはいけない。それぞれがその答えを見つけることは難しい場合もあるでしょう。そういった中で迷い、疲れ果ててしまい、不登校や引きこもり状態になってしまう方々が多いのかもしれないと感じます。

 それに対し私たちは、自分たちの持っている価値観を押し付けるのではなく、彼らの話を聞き、理解するよう励み、それぞれ違った彼らにとっての「幸せ」となる答えを導いていくことが必要です。

 若い世代の方々にとってはとても生きづらい世の中だとは思いますが、諦めず、頼ってほしい。
 また、ご家族ができることもありますので、ぜひご相談していただけたらと思います。