「ひきこもり」状態が続くこと

「普通の日常」は「あたりまえ」ではありません

多くの人は、朝起きて、学校や職場に行って、夕方、夜になったら帰宅して、睡眠をとってまた朝になったらまた起きて...といった生活を送っていることでしょう。もちろん、夜や明け方から仕事をする人もいますし、時間帯は様々ですが、概ね一日のサイクルに従って生活していると思います。それらを毎日繰り返していると、いつのまにか、そのような「普通の日常」をあたりまえにあるものと錯覚してしまいがちになるかもしれません。しかし、それらはあたりまえなものではなく、身体面、精神面、環境面の要因がすべて揃ってはじめて成り立つものなのです。もし、大けがや病気にかかる等の、身体面での障害があった場合、またはうつ病等の精神面の障害や、環境面で言えば、失業等による環境の変化が影響した場合、そのような「普通の日常」を送ることができなくなってしまうかもしれません。

ひきこもりが続くこと

「ひきこもり」状態になるということは、前述したような環境面の障害により、「普通の日常」を失うことになります。この状態は、ある一定期間であれば休養となるものかもしれませんが、このような状態が長期間続くことは、身体面、精神面でも影響を与えることになります。
まず身体面ですが、仕事をしたり、学校に行ったり、家事をしたり…様々な日常は、たくさんの運動をしています。それらの運動は目的があるので意識せずに行われますが、同じ量の運動を目的無く行うのは大変な労力です。「ひきこもり」状態になれば、ほとんどの場合運動量は減っていきますから、いきなり社会復帰しようとしても体力面で困難になっていきます。
また、「ひきこもり」状態になると、一日のサイクルも崩れますから、睡眠障害等にも悩まされることになります。
精神面では、「ひきこもり」状態となり、長期化すれば、 ストレスのたまる状態が続くことになり、うつ状態や不安障害、その他の精神疾患にかかりやすくなります。また、家族以外とのコミュニケーションが取れなくなることでコミュニケーション能力が次第に低下してきます。
そしてもう一つ、大切なことが脳をたくさん使わなくなることです。特にひきこもり状態になると前述したような運動や、仕事や勉強、会話をする機会が減り、インターネットやテレビを見たりといった行動が多くなるため、受動的な脳の働きに限られてきます。これにより、脳の限定された部分のみが使われ、脳の一部分が使われなくなるのです。その使われない部分が、まさにコミュニケーションややる気、創造力と、仕事を行う上で必要な情報処理能力においても重要な働きをする場所であるため、「ひきこもり」状態が長期化した方が労働した場合、当初「仕事が遅い」「動きが鈍い」とみられがちになります。これらは、このような脳の動きが関係しているのかもしれません。
このように、これらの面は、しっかりと当事者の方の状態を把握し、必要であれば医療機関等の利用もしながら、無理をしない段階から、辛抱強く少しずつトレーニングしていけば克服できるものです。 
逆にこの見極めができないと、無理をさせすぎてしまってかえって心の傷を深くしてしまったり、 当事者をそのままにしてひきこもりを長期化し、状態を深刻化してしまうのです。